「1F(イチエフ) 福島第一原発の今」前編 2022年6月18日放送分

田巻

日本の未来、福島の復興を企業や研究者の目線から探ってきた

「First Maker 〜希望のストーリー~」。

2020年11月から放送してきましたが、今月で終了となります。

大楽

そこで最後の2回、今回と次回は、

特別企画「1F(イチエフ)福島第一原発の今」をお送りします。


高原さん

私、廃炉コミュニケーションセンター リスクコミュニケーターの高原と申します。

これから、福島第一のこれまでの廃炉の歩みというところをビデオに10分ほど作っておりますので、こちらをまずご鑑賞いただきたいと思います。

『2011年3月11日、重大な原子力事故を起こしてしまった福島第一原子力発電所。
多くの皆様のご協力をいただきながら、廃炉に向けて歩みを進めています。』(ビデオ音声)

まずは福島第一原発の概要を学びます。

東日本大震災にともなう津波によって起きた原発事故。福島県の避難者は最大およそ16万5千人にのぼりました。

2022年6月、避難指示が出ていた葛尾村の帰還困難区域の一部で避難指示が解除されましたが、2022年2月の時点で避難者はまだ3万3365人。

11年が経った今、復興はまだその途上。

福島県大熊町(おおくままち)にある、イチエフこと東京電力 福島第一原子力発電所の現在の状況を、私たちの取材を通して、お伝えします。

廃炉プロジェクト|福島への責任|東京電力ホールディングス株式会社 (tepco.co.jp)


大楽

僕は2020年8月に一度行ったんですけど、その時と比べて今回どのような状況になったのか、すごく気になってたんですね。

田巻さんは今回が取材初めてですよね?

田巻

そうなんです。今までニュースでは原子力発電所について見てきましたが、実際現地ではどうなっているのか、この目で見たいなと思って今回取材してまいりました。

大楽

僕たちは、東京から特急ひたちに乗って常磐線の大野駅へ。

大野駅から福島第一原発へは車で15分ほど。

手続きを済ませ、まずはブリーフィングを受けるために敷地内の最も西側、つまり海や海に隣接する1号機から4号機建屋とは最も離れた、大型休憩所塔の7階に上がりました。

提供:東京電力ホールディングス株式会社

田巻

今回、主に話を聞かせてくださったのは廃炉コミュニケーションセンター リスクコミュニケーターの高原憲一(たかはら・けんいち)さんです。

廃炉コミュニケーションセンター リスクコミュニケーターの高原憲一(たかはら・けんいち)さん

大楽

僕たちは大型休憩所の7階にいます。

7階が唯一、外が見える窓があるんですよね。

高原さん

こちら、2015年に建築された建物でございますけども。当時はやはり線量も高かったり、飛散の可能性もあったということで、窓のない設計にしようと。

ですが、やはり現場の状況を見ていただくと。ここだけガラス貼りの窓というものをつけることにしたと。

田巻

今二つある窓のうち一つの窓を見てるんですが、1~4号機の建屋の奥に海が見えますよね。東日本大震災当時、津波はどのくらいの辺りまで来たんですか?

敷地を一望できる窓から福島第一原発の全景を見てみました。

高原さん

海に来るまでは13m強ぐらいだったと言われてますが、それが15、6mぐらいの高さまで上がったうえで建物に入ってきたと思われます。建物のある場所というのは当時10m盤ってところなんですけど、そこから約5mぐらいの高さ、つまり建物の1階分ぐらいが浸水するぐらいまで。

我々としてはその当時では想定外の高さだったということもありまして、原子炉建屋まで含めて、1階に大物搬入口というシャッターがあるんですけども、そこがもう完全に水没するぐらい水がやってきたと。


海の手前には1号機から4号機建屋が横に並んで見えました。


高原さん

1号機から4号機の建屋が、作業中のところもありますけど見えていると思います。

爆発したという過去のことだったり、その後燃料取り出し用にカバーの建物を作ったりというところで、ご覧の通り各々の建物の見た目がかなり変わっている状況になってます。

福島第一各号機の状況 – 廃炉プロジェクト|廃炉作業の状況|東京電力ホールディングス株式会社 (tepco.co.jp)

大楽

高原さん、僕達ってどこまで近づいて見ることができるんですか?

高原さん

これからバスに乗って頂いて、一番高い33.5m盤という一番上の際のところまで行っていただきます。そこが「高台」と呼ばれてる場所になるんですけど、1号機から4号機までを俯瞰して見られる、本当に近傍のところまで、建物からは100mぐらいまで近づきます。

大楽

そこは防護服とかは必要なんですか?

高原さん

必要ないです。

大楽

大丈夫なんですか!

高原さん

ある程度汚染物質と言いますか、ダストが舞っている状況がこれまであったので、それを中に取り込まれると内部被曝だったり外部被曝という状況になりますが。

そのダストというものが飛散しない状況が現在作られていて。そのため、本当に簡易な装備で近づくことができるというふうに考えていただいて結構です。


そして、眼下の左側には水色の貯蔵タンクがたくさん並んでいます。

敷地には所狭しとタンクが。

高原さん

これは、汚染水からトリチウム以外の物質が国の基準以下に収まるようにしっかり浄化された 「ALPS処理水」。

若干上回っているものもありますけど「ALPS処理水等」と、タンクで水が貯められてる状況です。

田巻

タンクの中にはどのくらいの量の水が入っていますか?

高原さん

現在タンクの中に合計130万トン弱の水が収められている状況です。

一つ一つ、これらは千トン級タンクということで、一つあたり千トンぐらいの水が収められているという状況です。


大楽

今出てきた汚染水ALPS処理水については、また後ほど詳しく説明しましょう。

田巻さん、7階の窓からの景色見て何を思いました?

田巻

私は水色の貯蔵タンクの大きさと数に驚きました。

大楽

本当にいっぱいありましたよね。もう所狭しというか。

田巻

そうですね。

大楽

僕はやっぱり東日本大震災の時に、テレビ画面から見てて何度も見た景色だったので…生活のためにはすごい必要だったんだけど、ちょっと胸が痛みましたね。

そんな現在の福島第一原発の状況を高原さんにお聞きしました。


田巻

福島第一原子力発電所では、1日どのくらいの人たちが働いているんですか? 

高原さん

今の大体3000人から4000人ぐらいの作業員さんがいらして。そのうち約7割は福島県からいらしてる方。

田巻

一番多かった時の人数は…?

高原さん

7000人を上回る作業員さんがいらしてたこともあります。

その頃はやはり非常に現場の方がリスクが高い状態と。主に土木作業ですね、タンクの設置なども含めて、やはりそういった作業が大枠でやってた時は多かったと。

大楽

今、3000人~4000人ぐらいということですけど、その方はどういった作業をされてるんですか?

高原さん

汚染水対策であるとか、燃料デブリ対策、使用済み燃料の取り出し、廃棄物対策など、あとは敷地利用などの整備など。

我々の会社の中でプログラムというものを組んで作業しているので、そういったところの枠組みの中でさまざまな作業の分担をされた人たちが仕事をして頂いてるのかなと。

田巻

働いている方たちって寝泊りや食事はどこでされているんですか?

高原さん

いまは、基本的には自宅だったり、遠くから来てらっしゃる方は宿舎に泊まっていらっしゃると思うんですけど。食事はこちらにある食堂であるとか、自分で持参されたお弁当なんか持って来られてる方もあると思います。しっかり休憩場とかが設定されているので、そちらで安心して食べていただけてるのかなと思っております。


僕たちはガイダンスのビデオを見て、ブリーフィングを受けて、1号機から4号機を100 mほどの場所から見ることができる「高台」へバスに乗って向かいました。

バスの中で施設内の案内をしてくださったのは、廃炉コミュニケーションセンター 視察コミュニケーショングループの 青木知里(あおき・ちさと)さんです。

バスの中からは防護服をつけずに歩いている作業員の方たちが見えました。そして、かつてイチエフの敷地内が緑豊かな環境にあったとは知りませんでした。


青木さん

これから通るのは「さくら通り」と呼ばれるところです。

名前の通り、桜並木となっております。

提供:東京電力ホールディングス株式会社  
撮影者:西澤 丞
撮影日:2019年4月9日

もともと福島第一原発は野鳥の森と呼ばれているかなり緑豊かな場所でもありましたけども、震災の後はご覧の通り、タンクのスペースの確保が必要だったり、駐車場の確保が必要だったりするといったところ、あとは放射性物質が付着してしまうというところもありましたので、現在380本まで伐採をしております。

もともと1000本以上の桜から現状の380本というところですけれども。やはりこの桜並木で季節を感じたり、作業者さんの心が和んだりという所もありましたので、380本以上を伐採するというのはやめました。スペースの確保、放射性物質の付着といったところもありますがもう一つ、汚染水を発生させないということ。

提供:東京電力ホールディングス株式会社  
撮影者:西澤 丞
撮影日:2019年4月9日

大熊町のエリアはフェイシング工事というものをしております。ほとんどのエリアで土のエリアをなくして、コンクリートやモルタルを吹き付けてフェイシングをされた形になっております。雨が降った後に染み込んでいって、地下水になると今度は汚染水になってしまいますので、防ぐための対策ということでも行っております。

ちょっと右手を見ていただきますと、赤いステッカーの貼られた車がご確認いただけると思います。震災当事、ラジエーター等に放射性物質が付着してしまって、構外に持ち出さずにこの構内のほうで使用していた車になります。こちらは10年経って、車もだいぶ年季入ってまいりました。運用は停止しております。この後は廃棄していくために場所を移動することになっております。

震災の後ということで、右手に給油所。いまの構内専用車両に給油が必要ですので、新しく震災の後できているのが右手の給油所になります。

敷地内には給油所なども整備されていて、1つの街のようです。

左側をご覧いただきますと、赤白のクレーンがご覧いただけるかと思います。その人に鉄骨ですね、骨組みのようなものが見えたかと思います。

1号機建屋。鉄骨が露出していますが粉塵などが飛び散らないような施工をしているそうです。

そちらは1号機の大型カバーの骨組み、鉄骨ということになります。今走っている道路をずっとまっすぐ海の方に向かっていきますと、ちょうど右手側に1号機が出てまいります。

2号機~4号機もそれぞれ作業のための様々な什器が建設されています。

構外、いわゆる線量計をつけずに作業をして、必要なものを運んで設置をするということで線量低減対策もしながら進めているといったところです。

…ちょっと停めてもらってもいいですか?


敷地内をバスに乗って「高台」へ向かう私たち。

説明をして下さっていた青木さんが、いちどバスを停めたのは「多核種除去設備」

アルファベットでA・L・P・S、通称「アルプス」と呼ばれる施設の前です。


青木さん

左手に見えている三角形の屋根が「多核種除去設備」といって、通称「アルプス」と呼んでいる場所になります。

62種類の放射性物質の大部分を除去し低減できる浄化装置が入っています。

浄化した水については、右側に見えていますタンク群、1061基ありますけど、計画では137万トンまで溜められますが、現在約130万トンまで溜まっているという状況になります。

放射性物質をフィルターに付着させる、ご家庭にあるような浄化装置と仕組みは同じようなものになるんですが、放射性物質がフィルターの方に付着しますので、当然フィルターも放射性廃棄物となります。

赤いクレーンがあるかと思いますが、その下にコンクリートボックスが並んでいます。こちらが廃棄物・フィルターを保管している、専用の遮蔽効果があるコンクリートボックスを保管している場所となります。


「核種」とは、放射性物質のこと。

ここ通称アルプスでは、トリチウムを除く62の核種を汚染水から除去するので、「多核種除去設備」の名称がついています。

昨今、福島第一原発に関して取り沙汰されているのが、汚染水を処理した、処理水放出の問題。

なぜ、汚染水は増え続けているのか?廃炉コミュニケーションセンター リスクコミュニケーター 高原憲一(たかはら・けんいち)さんのお話です。


高原さん

なぜ汚染水が発生するのかと。

まず、炉内から出てきた水というのは、セシウム吸着装置である程度セシウムやストロンチウムを除去した後、淡水化装置と言っているところで塩分除去等を行ったら、循環冷却と言ってるんですけど、水を再利用して最後に循環させているようなことをやってます。

このループだけであれば、ずっとこのままやっていけるので、水が増える理由はないんですけど。

建屋そのものは頑丈ではあるんですけど、建屋の所にはどうしても配管とかケーブルとかを侵入させている場所とかがあるので、そういったところのエキスパンションというかラバーというか、そういうところが少しやはり脆弱になっている。そういったところから地下水が浸入してしまっている。

あとは建屋が壊れていることで、雨とかが直接入ってきたりもしているということで。どうしても余剰的な水が発生するんですね。

この段階で今130トン弱くらい溜まってますけど、タンクの方は137万トンしかない。現在その汚染水が1日あたりどのくらい発生してるのかというところですけど、130トンですね。

このタンクが満タンになるのはいつなのかというところなりますけど、先日我々の方で公表していますが、来年の夏から秋頃というふうに考えているというところでございます。


おさらいをすると、福島第一原発には処理水を貯蔵するタンクが1,061基。

水が入る総量は、およそ137万トン。現在すでに、およそ130万トンが貯まっています。

まだ7万トンほど余地がありますが、汚染水は1日あたり130トン発生するので、来年の夏から秋ぐらいには一杯になってしまうというわけです。

汚染水が増えないように、
・地下水バイパスや井戸による地下水の汲み上げ
・凍土:凍った土壁で遮水壁を設ける
・雨水の土壌浸透を防ぐ敷地舗装、フェーシング
などもやっていますが、限界もあるようです。

そこで、海への放出という話が出ているわけですが、その安全性についての話は、次回詳しくお伝えします。

バスは高台へと向かって、また走り出しました。


青木さん

正面に建屋が見えてまいりました。バスの線量計も1.1μSv/hと、先程よりは少し上がってきていますね。

ちょうどいま国道が、大熊町の国道のところの線量が1.1μSv/hくらいだと思いますね。

正面には1号機が見えてまいりました。

このあと「高台」というところで収録しますけども、1号機から順にご説明するかたちで進めていこうと思います。ただ、線量が高い場所ですので時間が限られます。だいたい100μSv/hくらいの場所になります。

勿論このままの格好で行けます。ただ、高台というところになりますとそれだけの線量になるので、15分位を目途にあがってくるような感じになります。

移動のバスの中にも線量計。写真は原子炉建屋そば。30.3μSv/h

2回にわたって、東京電力 福島第一原子力発電所の現在の状況を伝える

「1F(イチエフ) 福島第一原発の今(前編)」をお送りしました。

大楽

話を聞いてきて、11年間休んでいたわけではなくて、皆さん本当に必死にいろんな方法で建屋をどうしたらいいのかと作業してくれてたんですよね。

田巻

復興への道のりはまだまだ課題が山積みで、大変なことがたくさんあると思いますが、頑張っていただきたいなと強く思いました。

次回は「1F (イチエフ)福島第一原発の今(後編)」をお送りします。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です