石川さん
野中さんおっしゃるように、日本のクリーンコール、綺麗な石炭技術…これはドイツも持ってるんですけど…本当はそういった技術を、中国とかインドとか、あるいはこれから石炭が増えると思われる東南アジアといった国々にどんどん供与するようにやっていかないと。
東南アジアにしても中国にしてもなんにしてもエネルギーがないんですよ、使えるものが。だから中国とインドはやらないとは決して言わないの。だって困っちゃうじゃん。そういう時に日本の技術、ドイツの技術がどんどん行けばいいと思うんですけども、そうはならずに「石炭止めてしまえ」的なね。
野中プロデューサー
それが僕本当に不思議でしょうがないんですよ。

大楽
「Clean Coal(クリーンコール)」、直訳すれば「綺麗な石炭」ということなんですが…。
あまり耳馴染みのない言葉ですよね?

田巻
そうですね…!

大楽
このクリーンコール発電ですが、実は福島県で施設が2か所あるそうなんです。
今日はその一つ、いわき市にある「勿来IGCCパワー合同会社」から、副所長 遠藤聰之(えんどう・としゆき)さんにお越しいただきました。
遠藤さん、よろしくお願いします!

遠藤さん
勿来IGCCパワーの遠藤です。よろしくお願いします。
勿来IGCCパワー合同会社|福島から最先端クリーンコール技術の発信 (nakoso-igcc.co.jp)
従来の石炭火力発電とクリーンコール発電
大楽
勿来IGCCパワー合同会社についてお話をお伺いする前に「クリーンコール発電」についてお話を伺いたいと思うんですが…。
「クリーンコール発電」とはどういうものなんでしょうか?
遠藤さん
クリーンコールというのは、石炭を利用する際に色々と生じる環境への悪影響、これをなるべく軽減して賢くキレイに石炭を利用していく技術の総称になります。
大楽
これまでの石炭火力発電とはもちろん違うと思うんですけれど、従来の石炭火力発電というのはどんなものだったんですか?
遠藤さん
従来の石炭火力というのは、石炭を燃焼させて、その熱で水を蒸気に変えて、蒸気の力で蒸気タービンを動かして発電を行う…いわば一種の蒸気機関のようなものになります。
大楽
すごくシンプルなものですよね。
遠藤さん
はい。我々の発電所は、石炭から出てくる二酸化炭素の排出量を抑えていこうという観点で進めておりまして。今までの発電所とは仕組みが少し違います。
いったん石炭を高温高圧のガス化炉の中で、個体の石炭から気体の石炭ガスに変えてしまう。そしてその気体の石炭ガスをガスタービンに入れて、そこで燃焼させてガスタービンを動かす。ガスタービンは一種のジェットエンジンみたいなものです。そこから高温の排熱が出てきますので、またこの熱を使って今度は水を蒸気に変えて蒸気タービンを動かす。
ジェットエンジンと蒸気機関の組み合わせのような形で、 ダブルの力で発電機を動かしている。これが、今我々が進めている発電所。
こうすることによって二酸化炭素の排出量をいかに少なくするか、という点でクリーンコール技術を取り入れた形になります。
IGCCとは | 勿来IGCCパワー合同会社 (nakoso-igcc.co.jp)
大楽
このクリーンコール発電をすることによって、二酸化炭素の量っていうのは以前より軽減されてるんでしょうか。
遠藤さん
はい、従来型の発電所ですと、100の電気を得るのに100の石炭が必要だったとしましょう。
我々の発電所では、100の電気を得るのに、85の石炭で対応することができます。石炭の使用量を15%削減している。石炭を使う分を少なくすれば少なくなる分だけ、大気中に放出される二酸化炭素の量は少なくなる。ゆえに従来型の石炭火力に比べて、我々の発電所は二酸化炭素の放出量が15%少ないということになるわけです。
田巻
すごいですね。燃料は少なくて、発電量は今までと変わらない…効率がいいですよね!
大楽
そうですよね。石炭へのコスト自体も下がってるということですもんね。

大楽
ただやはり、どうしても気になるのが、いま世界の流れが「脱炭素」に向かってるような気がするんです。そんな中で風当たりもちょっと強いんじゃないかなって思うんですけど…?
遠藤さん
一つは、日本において再生可能エネルギーをこれからもっともっと増やしていかなければいけないというふうに私たちは考えております。ただ、再生可能エネルギーの問題としてやはり発電量を人為的にコントロールできないという問題がございます。つまり太陽光であったり風力であったり、こういったものに関しては人間がどうすることもできない自然環境とかお天気によって発電量が大きく変わってしまうと。
電気って、まだたくさんの電気を一度に貯めるっていう事が出来ませんので、その都度現在使ってる使用量に合わせて発電をしておかなければいけないという問題があります。
そうすると、再生可能エネルギーを日本でこれからもっともっと増やしていくためには、ベースとなって電力を支える電源を併せて整備しておかないと、これ以上は再生可能エネルギーを日本では導入できませんという状況になってしまうわけですね。
では、その電力のベースを支える電源を何にするかという問題ですけれども、日本ってエネルギーを海外からの輸入に頼っていて、自給率がとても低いんですね。石炭って世界各国から産出されまして、かつまた埋蔵量もとても多い。そして価格も安定している。こういった石炭は日本のような国の国情を考えた時に、どうしてもやっぱり日本として放棄することのできない燃料の一つではないかなというふうに考えているわけです。
もう一点、世界全体に目を向けた時に、世界の電気は一体何によって作られているかと言うと、だいたい7割ぐらいの電気は石炭火力で作られています。
田巻
7割も⁉
大楽
そんなに使われているんですか!
遠藤さん
この石炭火力で作られる電気ですが、特に発展途上国を中心に旧式の石炭火力が未だ現役で稼働していて、今この瞬間にも大量の二酸化炭素を放出し続けてるわけです。
これらの国々が一足飛びに再生可能エネルギーへ転換してくれればいいですけれども、やはりなかなか技術面、お金の面で正直難しい。となりますと、今この福島県浜通りで開発されましたIGCCの発電所をこういった国々に展開することによって、旧式の石炭火力から最新鋭のIGCCに変えてもらうことができるならば、世界レベルで二酸化炭素の放出量の削減に寄与するのではないかなというふうに考えてるわけです。それが我々が今まさにこの地域でIGCC発電を進めている理由ということになります。
クリーンコールがもたらす環境への負荷軽減
大楽
クリーンコール発電と、「IGCC」というものは別なんですか?
遠藤さん
厳密にいうと、先ほど申し上げたようにクリーンコールというのは、石炭を環境に対する影響を抑えながら使っていこうという技術の総体を指しています。
元々、クリーンコールの考え方って古くからありまして、石炭の中にはいろんな不純物が含まれています。イオン酸化物や窒素酸化物が大気に放出されて、大気汚染問題が高度経済成長期に大きな社会問題になったわけですね。そこからまさに、クリーンコールの技術が始まった。大気汚染の原因となってしまうような物質を出さないようにしながら石炭を使っていこうと。
で、今はさらに考え方が進化しました。石炭を燃やした時に発生する二酸化炭素をいかに大気に出さずに進めていくか。これはまさに今のクリーンコール。
このクリーンコールを実現したのが「IGCCプラント」ということになります。
大楽
クリーンコールという全体枠の中の一部が「IGCC」ということですね。
田巻
日本にも石炭火力発電って多くあるじゃないですか。その石炭火力発電を、クリーンコール発電方式に全部変えるというのは可能なんですか?
遠藤さん
まず、技術的には可能だと思いますが、我々の発電所はまだできたばかりですので、きちんとこれが長期間安定して運転できるかというところがまず正念場になってくるかなというふうに思います。
それともう一点、実は従来型の石炭火力とIGCC発電所の石炭は種類が全然違います。
大楽
石炭が違う…?
田巻
どう違うんですか?
遠藤さん
従来型の石炭火力は「高品位炭」と言われる石炭を使います。これはどういうものかと言うと…石炭を燃やすと石炭灰が出てきます。熱で灰が溶けてしまうといろいろな発電設備の中にくっついちゃって悪さをしてしまうので、従来型の石炭火力では灰が溶けやすい石炭って使えないんですね。ですので熱を加えても灰が溶けにくい、だから高品位炭と呼んでいるのですが。
大楽
結構選ばれた石炭なんですね。
田巻
高そうですね…?
遠藤さん
そうなんです…(笑)
我々IGCCプラントでは石炭をガスに変えてしまいます。その過程で他の要らない成分はドロドロに溶けてしまって、ガラス状の「スラグ」という物質になってガス化炉から排出されていきます。ですので灰が溶けやすい石炭をどんどん使うことができるんです。これを「低品位炭」って呼んでいますけれども。

大楽
選択しなくてもいいんですね。
遠藤さん
そういうことです。全く違う種類の石炭を使うので、その分燃料の調達費が安く抑えられる。
大楽
じゃあみんな使った方がいいじゃないですか!
田巻
やったほうがいいですね!しかも二酸化炭素の排出量も削減できる…!
その溶けた灰ってどうしてるんですか?
遠藤さん
ガス化炉から出てきた灰は、ガラス状の砂粒みたいになってるんですね。これを我々はアスファルトの中に入れて建設資材にしたり、コンクリートの中に入れてコンクリートの材料にしたりしています。
大楽
再利用できるんですか!
田巻
素敵!
遠藤さん
もともと石炭火力は灰の大量処理問題が出てきたわけなんですが、私どもの発電所は灰を出さず全てスラグになってしまって、全てこれらを再利用していると。

IGCCのメリット | 勿来IGCCパワー合同会社 (nakoso-igcc.co.jp)
クリーンコール発電と福島
大楽
ここからは福島との関わりについてお話を伺っていきたいと思います。
遠藤さん、この「勿来IGCCパワー合同会社」の設立された経緯を教えていただいてもよろしいですか?
遠藤さん
実は、私どもの勿来の発電所、それから広野の発電所ですけれども、「福島復興電源プロジェクト」という位置づけで立ち上がったものでございます。
私どもの方は「勿来IGCCパワー」。広野の方は「広野IGCCパワー」ということで、会社としては別々の組織になっておりますけれども、この二つの会社は三菱グループ、東京電力、それから勿来に関しては常磐共同火力が資本参加しておりまして。それぞれ同じ事業体が同型の発電所プラントを建設するということでつくられた双子の事業会社という位置づけになります。


目的としては、2011年の原子力災害で大きな被害を受けた浜通り地方の復興のために、雇用の面、それから経済的な波及効果をねらいに、この二つの会社が立ち上げられ発電所のプラントの建設に至ったというところでございます。
田巻
なぜ広野と勿来に作られたんですか?
遠藤さん
広野町に建設したのは、ちょうどそこにJERAの広野火力発電所があって、その中の敷地の中でIGCCプラントを建設できる余地があったということ。
勿来に関しては、常磐共同火力の隣接地、津波で被害を受けた土地でしたけれども、そこが利用できるというところでそれぞれ作ったというところです。
発電所の近くに作れば当然既存の火力発電所のインフラも共用できるんで、そのぶん建設コストが抑えられるというメリットがあったということ。
それともう一つ、石炭は全て海外からの輸入になりますので、近くに港が必要になってまいります。ちゃんと石炭運搬船が着岸できて、石炭を陸揚げできる港湾設備が整ってないと難しいということになるんですが。小名浜港は、日本における石炭輸入港の拠点として今整備が進められています。広野も勿来も、この小名浜港にほど近いところにあるので、この二地点が選ばれたと。
既存の火力発電所の設備が共用できるとともに、石炭輸入港にほど近いというところから選ばれたということになります。
大楽
昔、僕のおじいちゃんが炭鉱に勤めていて。その話をしてくれたことを今思い出しまして。
元々炭鉱があったのに、なんでそれをわざわざ海外から持ってくるんですか?
遠藤さん
今は日本の炭鉱自体は閉山、コストなどいろいろな面で海外炭が主流になってしまいました。どうしても日本国内の国産炭って限られていますので、海外から持って来ざるを得ないと。

大楽
「福島復興電源プロジェクト」についてもお伺いしたいんですけど、これはどのようなプロジェクトなんでしょうか?
遠藤さん
この二つの発電所を建設して運営していくという、まさにこれが福島復興電源プロジェクトという位置づけです。福島復興の一助として、新しい火力発電所、IGCC発電所を2か所に作る。まさにそれが福島復興電源プロジェクトと呼んでいます。
田巻
新しい火力発電所ができると雇用も増えますし、それが復興へ繋がっていくってことですよね。
遠藤さん
おっしゃる通りです。建設自体にもたくさんの人々の力を借りないと発電所はできませんし、さらに作ったらおしまいではなくて、その後の運転、さらに補修、さらに発電所って作った後も定期的に点検しなければいけません。そのために多くの作業者の方々に点検をしていただくということになりますし。燃料の輸送を見ても、地元の方々に働いていただける場所を我々は今後長期に、数十年にわたって提供し続けることができるというふうに考えています。
大楽
これはすこし聞いた話なんですけども…「脱炭素」というものが出てきたときに、建設自体を諦めた会社もあるとお伺いしたんですけど、その方向はなかったんですね。
遠藤さん
我々はむしろ日本のベースとなる電源を支える一つとして、このIGCCプラントは必要だと考えていましたので。
大楽
そして、今後はこの技術を海外に輸出すると。
遠藤さん
さらに、 世界的なレベルで二酸化炭素削減のために、むしろこの発電所は利用できると考えております。

「勿来IGCCパワー合同会社」副所長 遠藤聰之(えんどう・としゆき)さんにお話を伺いました。ありがとうございました!
次回もよろしくお願いいたします!
編集後記
●「クリーンコール(Clean Coal)」: 石炭を利用する際に生じる環境への悪影響を軽減し発電する技術。 従来の石炭火力発電と比べ、石炭の使用量は少なく発電量が変わらない。また、「低品位炭」と呼ばれる石炭を使用するためコストが抑えられる、「スラグ」と呼ばれるガラス状の排出物を建築資材などに有効活用できるなど、様々なメリットがある。
●将来的に日本において導入を進めていくべき再生可能エネルギーには①天候などに左右され供給が不安定②蓄電技術が発展途上などの問題がある。ベースとなって電力を支える電源を併せて整備するため、勿来IGCCパワー合同会社では環境に配慮したIGCC発電所を運用している。
●福島に誕生した「勿来IGCC発電所」と「広野IGCC発電所」。2011年被災した浜通り地方の復興を目指し、雇用と経済的な波及効果をねらいにIGCCプラントは建設、運営されている。福島復興の一助として、新しいIGCC発電所を2か所に作ることが「福島復興電源プロジェクト」。
●世界の電気の7割が石炭火力発電で作られている中、一気に再エネに切り替えるのは難しい。ならばと、環境に配慮した石炭火力発電技術:IGCCを研究・普及し、世界レベルで二酸化炭素の放出削減を目指す。これまで番組で扱ってきたエネルギーの話題の中で、また違ったアプローチで環境問題に取り組むお話を伺いました。
田巻
今回フォーカスするのは…
最先端のエネルギー「クリーンコール発電」に注目です!
「クリーンコール」…今年の初め、石川さんと野中さんのお話にもありましたよね。