今週のゲスト:東芝エネルギーシステムズ株式会社
水素エネルギー事業統括部 事業開発部
山根史之(やまね・ふみゆき)さん

大楽
水素エネルギーという話題、最近よく耳にしますね。
7月にも政策アナリストの石川和男さんにご登場いただきまして、水素エネルギーをご紹介したと思うんですけど、
まだそんなに深くはわからないことが多いですよね。

田巻
まだ全然わかっていなくて…
その最先端の研究施設が福島県浪江町にあるんですね!

大楽
そうなんですよね!
昨年7月から運営が始まっています。福島水素エネルギー研究フィールドです。今回、福島水素エネルギー研究フィールドで研究開発に携わる方をお迎えしました。
東芝エネルギーシステム株式会社 水素エネルギー事業統括部事業開発部 山根史之さんです!
今回はリモートでお届けしていきます。

山根さん
よろしくお願いいたします。
大楽
福島水素エネルギー研究フィールドのお話を伺う前にですね、水素エネルギーのことをじっくりお伺いしたいんですけれども。
そもそも水素エネルギーとはなんぞやと。
田巻
根本的なそこからですよね…!
大楽
再生エネルギーで、太陽光発電・風力発電ってのがありますけど、この水素エネルギーとの違いって何なんですか?
山根さん
「再生可能エネルギー」って言われてるものは、もうどちらかというと電力で取り出しますと。
つまり電気で取り出すものになります。
例えばその PV パネル(太陽光パネル)とか風力発電とかあるんですけども、そこからとりだすものがいわゆる電気になります。
水素は何かって言うと、水素自体が物質の一つになりまして。
例えばその水素をトヨタ自動車の「ミライ」のところに入れれば、燃料電池で発電をして、車が走る、移動できると…そういうかたちになりますし。
トヨタ MIRAI | トヨタ自動車WEBサイト
https://toyota.jp/mirai/
また別の形で、燃やせば水ができるだけなんですけれども、そこから熱を得ることができると。
なので、水素というものは、なにか直接エネルギーというよりかは、それを使ってまた別のエネルギーを作ることができる、『エネルギーのもと』というようなイメージに近いかなと思います。
大楽
エネルギーのもと、なんですか。
山根さん
そうなんです。電気としても取り出せますし、熱としても取り出せますし、また別のものとくっつければまた別の材料になったりもしますので、エネルギーのもとというようなイメージですね。
大楽
なるほど、それ単体だけではなくて、他の物をくっつけたり、一緒に何かをしたりすることによっていろんな物のエネルギーになるということなんですかね?
山根さん
そうですね。その通りです。
大楽
水素エネルギーを作るときに、電力を使わなくちゃいけないんですよね。
それはどうしてなんですかね?
山根さん
これはですね、水素というのは基本的に単独で存在するというよりも、何かと非常にくっつきやすい性質を持っています。
例えば、地球の上で最も多いのはいわゆる”水”っていう形になって存在しているものになるんですけども、H2Oって呼ばれると思うんですけども、水素の原子が二つと、酸素の原子が一つ。
で、くっついて水になってると。
水素を取り出したいなと思うと、そのくっついているものを引きはがさないといけないということになります。その引きはがすためにエネルギーが必要になりますので、一つの方法として電気を与えて、くっついてる水を水素と酸素にすると。
逆に言いますと、今度は水素と酸素がくっつく時にどうなるかと言うと、エネルギーを出すっていう形になります。
引き剥がす時には電気の形でエネルギーを与えて引き剥がすと。
くっつく時には逆に言うとくっついてくれてエネルギーを出すという形になります。
そのエネルギーを出す時に、例えば燃料電池を介してくっつける作業をすると電気が起きる。
その電気で車が走るというような形になります。
ですので、くっつけたり剥がしたりっていう時にエネルギーが出たり入ったりしているという形になります。
田巻
そういった理由で電気が必要だったんですね。
山根さん
そうなんです。強固にくっついているものをはがすというときに、電気がいると。
水素エネルギーとは?
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/advanced_systems/hydrogen/about/
大楽
再生エネルギーのなかで、太陽光発電とか、風力発電とか、そして一番注目されているのが水素エネルギーだと思うんですけれど。
一番水素エネルギーが注目されているのは、将来的にコストの面で安くなるとか…
普及しやすい目途が立っているからなんですか?
山根さん
まず、水素というのは、先ほど話しましたように水の形としても地球上には存在してるんですけども、莫大な量があるということです。
ですので、太陽光発電とかで水素を作ることができれば、ある意味無尽蔵なエネルギーという形になります。
水素がいろんな面で注目されてる、話題になっているのは、例えば何か化学原料を作る時に、今は石油から作ってるんですけども、それを水素と二酸化炭素を反応させて作るというようなことができるんです。
そうしていきますといわゆる電気じゃない形の物も全部 CO2を出さないものにできると。
例えば今お隣に立ってるようなプラスチックの壁(アクリル板)みたいなものがあると思うんですけども、今はこういったものを石油から作ってますので、CO2を出して作っているんです。
将来は、水素とCO2だったり別のものを組み合わせることによって同じものが作れますと。
ですので水素はそういった多様なものに使えるというところで電気以外のものもCO2フリーにするという意味で注目を浴びてるという形になります。
大楽
僕は完全に同じエネルギー、電気のひとつだと思っていたので、色々な物を作れるということまでは知らなかったですね。
田巻
こんな多様性があったんですね。知らなかったです。
大楽
だから皆さんが注目されている、世界中で注目されるエネルギーということなんですね!
山根さん
そうですね。
なので、最近ではさっきのプラスチックもそうですし、鉄も同じように作って、 CO2 をできるだけ出さないように作るとか、そういった方向も技術開発としては進んでいます。
地球上に存在するもの全て、と言うと言い過ぎになるんですけども、
そういったものの全てを基本は CO2を出さないものにする、という時に役に立つ『エネルギーのもと』だ、というふうにご理解いただければいいのかなと思います。

大楽
ここまで、水素エネルギーのすごく良いところを教えていただいたんですけど、安全性とかは大丈夫なんですか?
山根さん
水素=爆発っていうようなイメージを持たれることがもちろんあると思います。
通常、トヨタの『ミライ』が走っていたりもするように、水素は安全に使えば、特に爆発っていうものに至らないと。
ガソリンも同じようにですね、車を走らせるエネルギーがありますので、扱い方を間違えると爆発もするんですけども。
基本的に使い方を間違えなければ大丈夫になります。
水素の場合の特徴として、溜めて、酸素とかと混ざって、ある濃度になると爆発をするんが、そうではなくて、溜めないように空気中に逃がしてしまえば、最も軽い原子になってますので、すぐに拡散してしまうんですね。
空気中で薄まってしまって、爆発に至らないことになりますので。
基本的には漏らさないっていうのが重要なんですけども。
あとは溜めないっていうのと、
仮に溜まったとしても、何かしらの着火源がなければ爆発しませんので着火させないと。
この三つを守っていれば、十分安全に使うことができるというふうに思っています。
東芝水素エネルギー事業について
https://www.toshiba-energy.com/hydrogen/product/index_j.htm
大楽
ここからはですね、昨年2020年の7月に実証運営がスタートした「福島水素エネルギー研究フィールド」についてお話をお伺いしたいと思います。

本事業は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「水素社会構築技術開発事業/水素エネルギーシステム技術開発/再エネ利用水素システムの事業モデル構築と大規模実証に係る技術開発」事業として実施しています。
田巻
写真を見ているんですけど…すごいですよね!どのくらいの広さがあるんですか?
山根さん
大体、22万平方メートルっていうサイズがあります。
東京ドームで換算しますと大体五個分ぐらいになりますので、かなりの広さですね。
大楽
なるほど…同時に5試合全部行えるぐらいな!
田巻
どんな取り組みをされているんですか?
山根さん
ここでの取り組みは二つあります。
一つは太陽光の電力を使って自ら水素を作り出すという電気分解装置というのがあるんですけども、そちらの研究をまず一つやっていますね。
もう一つは、電力系統に対して再生可能エネルギーが沢山入ったときに、電力の供給と需要と合わせるための研究を行っています。
もうすこし具体的に言いますと、水を電気分解するときには電気を使います。
それはいわゆる、電力の系統から見ると、需要を増やしたり下げたりという風に見えるんですけれども、再生可能エネルギーのエネルギー量が変動した場合は、こちらのプラントの需要を上げたり下げたりすることによって、 電力系統の安定性を維持するということを行います。
その制御の方法とスピードといった点を研究していると。
この2点を研究しております。
大楽
なるほど…
一日にどれくらいの水素エネルギーの製造が可能なんですか?
山根さん
普通に作ると… 単位がちょっと分かりにくいんですが…
1時間当たり1200ノルマルリューベという…
田巻
…え、えっ!?
山根さん
す、すみません…。
ノルマルっていうのは、アルファベットの大文字の‘N‘になります。
そこにリューベという、メートルの‘m‘の3乗、上に数字の3がつくものなんですけど、それが1時間でできます。
Nm3(ノルマルリューベ)
https://www.weblio.jp/content/Nm3
ただおっしゃっていただいているようにですね、住民の方々にも説明してもですね…何なのか分かりませんということをいただきますので…。
仮に24時間動かしますと 1200×24 の量ができるんですけども。
分かりやすい数字で、となりますと例えば一つの家、一般の普通の家庭、四人家族モデルなんですけども、その家が1日使う電力量ってのがありまして。それの4500世帯分をまかなうことができます。先ほどの1200の部分を24時間動かしてできた水素を一般家庭の方にを供給すると4500世帯分の電気をまかなうことができます。
日本にある水素製造装置、電気分解の装置にしてもちょっと桁外れに大きいサイズになっていますね。
田巻
作られた水素エネルギーは一体どこで使われているんですか?
山根さん
実際、今の FH2R の近くですと、福島県のあづま総合運動公園というところにまず供給させて頂いてます。
福島県あづま総合運動公園向けの純水素燃料電池システム「H2Rex™」
https://www.toshiba-energy.com/info/info2019_0930.htm
そこに水素と酸素で反応させて電気を作るという装置がありまして、そこで電気をあづま総合運動公園の中に供給させていただいてます。

あとは、福島水素エネルギー研究フィールドの近くに「道の駅 なみえ」というところがあるんですけども、そこにも同じように酸素と水素を使って電気を起こす装置がありまして、そこにも水素を供給しています。

あとは「 Jヴィレッジ」があるんですけども、そこにも同じような装置が置いてありましてそこにも水素供給してます。
今、供給しているのはその3箇所という形になっています。
大楽
そもそも何で福島県浪江町にこの施設を作られたんでしょうか?
山根さん
もともとNEDOの実証で我々は応募しまして、NEDOさんに採択をいただいたんですけども。
その際に、候補地っていうのを記載をする必要がありました。どの場所でやるのかと言った時にですね、我々がいろいろ検討した結果、福島県さんの方で水素エネルギーを活用したいっていうご意向があるっていうのと。
あとは、将来的に再エネで100%にしたいというのと。
その時に福島新エネ社会構想会議とかもございまして、我々応募する立場としては、こういった最先端のものも、次の世代、次の世界のエネルギーになるっていうの福島県さんでやらしていただきたいってことで、福島県さんを書かせていただいた…という経緯になります。
福島県の中で、どこでやるのかっていうのは、実は我々が決めたのではなくてですね。
福島県さんの方に対して、こういうスペックの場所が必要ですという意向を提示させていただきまして、福島県さんの方で浪江町さんを推奨いただいたという形になっております。
東芝エネルギーシステムズ株式会社 水素エネルギー事業統括部 事業開発部 山根 史之 さんにお話伺っていきました。
次回も引き続きよろしくお願いいたします!

田巻
今回フォーカスするのは、
水素エネルギーの最前線、「福島水素エネルギー研究フィールド」についてです!!